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未規定性を解き放て!

  少なくとも最後まで歩かなかった


コーチングがはじまったのが5月中旬。8月後半の現在で、ちょうど3ヶ月が過ぎたところだ。最初のカウンセリングでは、主に「ターゲットレースと目標設定」「平日と休日で確保できるトレーニング時間」の確認をした。当初は、9月に開催されるはずだった<上州武尊山スカイビュートレイル>の140kmをターゲットに想定していたので今とは目標が変わったものの、その時点では大会まで残り4ヶ月。タイムや順位のような記録的な目標は特になく、日々のトレーニングを続けてスタートラインに立つことが自分自身では一番大事にしたいと伝えた。


確保できる練習時間については平日は早朝の1時間、週末は土曜日が午前中の3〜4時間、日曜日は1〜2時間が現実的なところだ。ここから週1〜2日の休足日を差し引くと、週あたり平均7〜8時間、うまくいって週10時間が自分の持ち時間となる。2019〜2020年にかけて、最低でも週10時間を確保していたことを思うと、足りないことは理解しながら大事なのはそこじゃないと割り切っている。


「今ある持ち時間で、今できる取り組みを、日々積み上げる」


自分より練習量が多い人がいれば、少ない時間を上手くやりくりしている人もいる。年齢も、環境も、モチベーションも多様なこのアクティビティは誰かと比べることも、或いは過去の自分を引き合いにすることもナンセンスだろう。定量的な基準が意味をなさないことがトレイルランニングの醍醐味で、故に僕らは日常のなかのささやかなウィルダネスを感じるんじゃないか。



僕のようなランナーにとってまず重要なことは、ひとつひとつのゴールを自分の脚で確実に走り抜けていくことだ。尽くすべき力は尽くした、耐えるべきことは耐えたと、自分なりに納得することである。そこにある失敗や喜びから、具体的な ー どんなに些細なことでもいいから、なるたけ具体的な ー 教訓を学び取っていくことである。そして時間をかけ歳月をかけ、そのようなレースをひとつずつ積み上げて行って、最終的にどこか得心のいく場所に到達することである。



ランニングに関する引用としては、あまりにありきたりではあるが、村上春樹の著書「走ることについて語るときに僕の語ること」で綴られたこの一節のような様でありたい。


さて、ターゲットレースまでの期間と、週あたりの運動時間というボリューム、この二つはつまり横軸的に表現すると<時間>に相当する。自分の場合は計17週 × 週8時間 = 約136時間が本番までの持ち時間になりそうだ。ここにトレーニングの<強度>という縦軸的な要素を加えていく。Tomo’s Pitの場合はピリオダイゼーションに基づいて、時期によって<強度>の内容を変化させていく。


RUN BOYS! RUN GIRLS! 内のブログ「出張版トモズセオリー」でも度々書かれているように、ピリオダイゼーションは<スピード期><持久力期><レース特化>の三期に分かれている。レースから遠い<スピード期>ほどベースとなる走力を高めて、本番が近づくにつれて行動時間を重視しながら、練習時のトレイル比率を高めていく。<スピード期>ほどポイント練習の運動時間は短いものの<強度>が高く、インターバルとテンポ走を中心に閾値を高めるトレーニングを行う。


さらに、上州武尊というレース特性を意識して、今回のポイント練習は坂道に絞って垂直方向の推進力を鍛えることになった。基本的には平日のうち2回をポイント練習の日に充てて、残りはリカバリーランで整えることの繰り返し。土日は行動時間を意識して、レースペースで林道や平地を織り交ぜながらバックトゥバック気味に走り続けられる身体づくりをする方針が決まった。



2022の体力測定(エンデュランス能力)


目標と時間数が決まったところで、あとは現在地の確認をする必要がある。それも客観的なデータとして。コーチング時のトレーニングは、Training Peaksを経由して運動時間から瞬間的な強度まで、全てがログデータとしてコーチに共有される。特に、<強度>の適正を捉えるには現在の走力を把握する必要がある。


トモさんからの最初のミッションはトラックを使って5000mのタイムトライアルをすることだった。5000mなんて何年振りだろうか。記録を遡ると、最後のタイムトライアルは2020年2月で、当時のタイムは17:29(PB)だったようだ。あれから2年と少し。落ち切った走力の現在地はどこなんだろう。目も当てられないだろうし、そもそもこの体力で5000mを走り切れる気がしない。ただ、考えても仕方ないので近所のトラックに向かって確認することにしよう。


久しぶりに踏み入れたタータンは粘り気があって気持ち良かった。そう、ジョグをしているうちは。どうせ苦しいんだからその瞬間のペースに集中して、息継ぎなしで25mのプールを泳ぎ切るような気分でさっと走り切った。記録は18:31。PBからはほど遠いものの思ったほど崩れることもなく、なんとかイーブンペースを維持することができた。


タイムを計るとすぐに、Training Peaksのログに対してトモさんからのコメントがあった。このタイムをもとに、リカバリーランからインターバルまで5項目の目安となるペースを設定してくれた。リカバリーランは5:30を最大値に、一番負荷のかかるインターバル(平地)の場合は3:18〜3:53を狙って走ることになった。フルマラソンで例えるなら、サブスリーを狙う走力だろうか。後日、ペースを意識して走ってみると設定値と体感的な負荷が近いもので驚いた。


そしてもう一つコメントがあった。

「一応、日影沢のロードを使って城山の天狗までタイムトライアルやってみよう!」

それ、更にキツいやつだ。このコース、東京都民ならお馴染みかと思うが、Stravaのセグメント上では距離にして4.42km、獲得標高528m、平均勾配9.3%の登り一辺倒のアスファルトコースだ。ちなみにコースレコードは19:51。


こちらも計測しないとはじまらないから、5000mを計測した同じ週に無心で走ることにした。記録は25:24(Stravaと計測位置は違う)、序盤から突っ込んだので相当苦しんだ甲斐あって、5000mのタイムトライアルよりは手応えのある結果だった。日々のトレーニングで設定するタイムは5000mから算出したものをベースに、日影沢タイムトライアルは今後の定点観測として成長を記録するために役立ちそうだ。今の自分のスタートラインがはっきりしたところで、ようやくトレーニングが本格始動する。



毎週木曜日は坂道ダッシュ


これは想像も踏まえながらになるが、自分以外の門下生も同じようなルーティーンをしているんじゃないだろうか。たまにStravaでTomo’s Pit仲間のログをチェックすると、同じ曜日の同じ時間帯に、同じような強度のトレーニングを見かけることがある(最近ではTomo’s Pitのグループがある!)もちろん、高強度のスピードは個々で違うものの、主観的運動強度という意味では同じ苦しみを味わっているんだろう。


では人によって何が違うか。恐らく、トレーニング歴をベースに導入段階の負荷のかけ方が違うはずだ。それと、目標レースまでの持ち時間やコースプロファイル、週あたりに確保できる運動時間、トレーニング環境によって内容をパーソナライズしてくれているように感じている。


トレーニングをはじめるにあたり、二つの疑問をぶつけてみた。


一つは優先順位のつけ方。家族の予定に合わせて思うようにトレーニングを組めない日がでて来ると想像した。その場合、やるべき練習、スキップの仕方をあらかじめ確認した。


もう一つは興味本位の疑問。<現在地><目標までの期間><週の運動時間>この3つが出揃えば、ある程度未来予想図はつくんじゃないかという問い。返事はYesだった。これを聞いてますますランニングが好きになった。怪我なく持続する前提であれば、週あたりにかけられる負荷はある程度決まってくるはずだ。また、現状の走力によってこなせるトレーニングやキャパシティにも相関関係がある。こういった構造的な美しさを知るほどに、奥深いスポーツだと感じる。


だからといってレースでのパフォーマンスが決まる訳じゃないことがさらに最高だ。越えられないと思っていたハードルは、飛んでみなければわからない。ただ、挑戦権を得るためには日々を積み重ねるしかない訳だ。


<スピード期><持久力期>の平日ポイント練習は火曜のテンポ走と、木曜日の坂道インターバルをひたすら繰り返している。先週できなかったことが翌週にはできるようになって、週単位でわずかながらでも成長を感じられるこのサイクルが気に入っている。