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タカオ ヴァイヴス

 

ボルダーへようこそ


誰が言ったかしらないが、鎌倉が日本のポートランドであるなら、高尾は日本のボルダーである、と。実際にどちらの都市にも行ったことはないけれど、なんとなく雰囲気としてしっくりくるところがある。ピースフルで、クリエイティブな面々が思い浮かぶ鎌倉界隈に対して、高尾といえば早朝から上裸で走っているオジサン、風通しがいい穴あきTシャツで走っているオジサン、スティーヴ・アオキ(もしくはヨウジヤマモト)みたいなオジサン、UL界隈、MYOG界隈、ビール界隈...ダイバーシティは低いけれど偏りの中のマッシュアップ感はなかなかのものである。

日常でも、郵便局に行けば偶然となりに知人がいて、子連れで市民プールに行けば同じく子連れのランナー仲間に会い、駅前のスーパーで買い物をしていると肩を叩かれ、通勤電車でばったり会い、世間は狭いというか、村社会というか、圧倒的に”ローカル”という文脈が自然発生的に形成されている。

そう、そんな自分も高尾民。東京に住んでいた頃の(いやいや、高尾も東京だ!)ホームトレイルはもちろん高尾。ただ、月に1回行くかどうかの頻度だったので、せっかくなら40〜50kmを一日かけて走ることが多かった。決めたコースをトレースして終われば帰ることが常だった。

実際に住んでみると、比較的短い距離でその時の気分に合わせてルートを選んだり、ロードとトレイルをつなぎ合わせたり、テーマに合わせて使い分けている。もちろん、住む以前から知っているトレイルは多くあるものの、実際に住んで山に出入りしていると高尾の印象はがらりと変わった。以前はトレーニングのルートという認識だったトレイルが、生活道の延長のように感じられ、道を選んで走っているという意識が強くなった。見えている景色は同じでも、感じ入るものの差異は住んでこそ腹落ちするところがある。

同時に、ある目標にむかって積み上げていく”トレーニング”という意味では、しっかりとコンセプトを作らないと迷いが多いのも事実。川沿いを走ればフラットなペース走ができるし、スピードを強化するならトラックも比較的近い。スポーツセンターにいけばトレッドミルはあるし、相模湖方面に向かえば峠走もすぐにできる。もちろん、毎日トレイルに入ることも容易い。選択肢が多い分、目的に合わせて適切に取捨選択をすることは案外難しいことも住んでわかったことだ。

その点、今はカリキュラムにそって日々、週単位、さらに期分けして積み上げられるところが気に入っている。自分がやっているアプローチが適切なのか、そこに疑心暗鬼になると積み上がるはずのものもずっと揺れてしまう。トレーニングに限らず正解はないものの、失敗を避けるという意味では一旦何かに乗っかってみることは一つの方法なんだろう。それが馴染むかどうかは乗ってから考えるくらいの気持ちの方が健康的な気がしている。




木曜日のヒルトレーニング


住んでみて、そして高尾で本格的にトレーニングをはじめて気づいたこと。それはトレイル以外のサーフェースも選択肢が多いことだ。とくに坂道を使ったトレーニングのバリエーションが豊富だ。ベース期からエンデュランス期、そしてレース特化の前半まで、週に一度は坂道インターバルを続けてきた。

トレーニング開始直後は坂道を使って、1分走を7本からはじめ、慣れるごとに回数を増やした。その後2分走に変わり、斜度や起伏のバリエーションも変化させながら負荷を高めていった。同じ坂道でも1分走と2分走では目的もかわり、負荷のかかり方もまた違う。段階的にキャパシティを広げては、負荷を高めてを繰り返す。

同じメニューでも、先週より今週の方がタイムが縮まり、来週はもっといい結果がでることを望むようになる。前回できなかったことがこなせると、肉体的な成長を実感して自信が生まれる。高強度の練習自体がほぼはじめてだったので最初は心配していたものの、慣れてくると楽しくなる。

坂道の場合、平地と違ってタイムやペースが参考になりづらい。そこで、トモさんからはデータをもとに出力の適正をフィードバックしてもらい、数値という客観性と主観的運動強度の塩梅をそろえていっている。特にはじめて間もない頃は狙った強度よりも出しすぎる傾向にあった。主観的運動強度を補正することで、怪我のリスクを避けたり、トレーニングの継続性を意識するようになった。

タイムがあまり参考にならない坂のトレーニングではフォームを意識している。苦しくなって前傾姿勢になっていないか、腰の位置が落ちていないかなどセルフチェックしながら走っている。フォームが崩れているならオーバーペースなので、姿勢が保てるなかで上限を狙って走っている。

エンデュランス期を終えた7月下旬、定点観測のつもりで5000mタイムトライアルに挑戦した。コーチングを受け始めた時の記録が18:31。これだけハードなトレーニングをしているし、好タイムを期待していた。結果は18:03。後半失速してしまったが、それなりに成果を感じることができた。坂道中心のトレーニングだったので、まずまずの結果と受け取っておこうか。

もうひとつの定点観測は前回同様に日影沢から天狗までのロードを使ったタイムトライアル。Stravaのセグメント上では距離にして4.42km、獲得標高528m、平均勾配9.3%の登り一辺倒のアスファルトコースだ。前回の記録は25:24だった。こちらは全力中の全力を振り絞って記録は23:43まで短縮できた。ペース配分がうまくいったことと、日々のヒルトレーニングの成果をしっかりと感じることができた。記録以上に、一定のペースで最後まで走りきれたことは、ちょっとした自信になった。

 

ぶちかませ2023


さて、上州武尊が中止になってすぐに目標を再設定した。とはいえ、持ち前の気難しさから何でもいい訳じゃなく、日々のトレーニングをモチベートできる目標が欲しかった。そう言うと、大会のために走っているようにも聞こえるが、実際のところは日々緊張感がある状態、集中している状態が好きだったりする。

目標はUTMF2023にした。実はまだ一度も走ったことがない。UTMF2021に出走するつもりで1年半トレーニングに集中して準備をしていたが、直前で中止が決まり走らないまま終了した。またいつか、同じ気持ちで臨める日が来ればいいけど、ないかもしれないと思っていた。当時は生活の中心、愉しみの中心がUTMFへの準備だった。ひとつのことだけを考えているのは楽しいもののバランスが悪い。最終的に中止になってエネルギーを放出しないまま、バランスだけが崩れていった。

今回、自分なりには良いバランス(メンタリティ)でトレーニングができている。上州武尊という目標がなくなってしまった中での偶然として、もう一度UTMFにチャレンジするのは良いタイミングな気がした。前回と違うこと、それはレースに全振りするのではなくバランスを意識するとこ。そして、何らかの理由で目標レースを走れないかもしれないという可能性を頭の片隅においておくこと。もしUTMFが走れなければ、その時点で出走できる次の目標を定めて、今回は走りきることを最優先する。

来年にむけて目標を設定したところで大事なことに気がついた。おそらく、自分にはエントリー権がない。普段から大会にほとんどでないことと、ここ2年は軒並み大会が中止だったことで、自分にはポイントが残っていない可能性が高い(ポイント制度は考え直してほしい!)。つまり、エントリー開始時期までにポイントを獲得することが最優先の課題となった。その時点で7月下旬。UTMFのエントリーが11月中だとすると、出走できる大会の数も、難易度もかなり限られてくる。いや、むしろ選択肢がないと言った方が適切だ。

10月はKOUMI100、11月は甲州アルプスの108kmに挑戦することに決めた。年に1回、ウルトラを走れたら十分というスタンスなだけに、2ヶ月続けてウルトラを走る日がくるとは想像していなかった。ただ、これもひとつの楽しみだと思っている。どちらも完走を目標に、リラックスして望みたい。

ただ、これで解決しないのがUTMF。スーパーハードな連戦をクリアしても、その先には抽選が待っている。この抽選、僕は何度か落選している。運良く当選したとして、コロナの流行、自然災害でレースが中止になる可能性だって十分にある。何なら、KOUMIと甲州アルプスだって設定コースで開催される保証はない。そんないくつものハードルをきれいに飛び越えて、ようやく目標のスタートラインに立てるわけだ。

ひとつひとつの準備はしっかりと、ただし自分ではどうしようもない要素も大きいので、すべての工程に一喜一憂しながら、流れに身を任せて行きたいと考えている。

最初の関門、KOUMI100まで1ヶ月を切った。本番を想像しながらレース特化期を過ごしている。