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二人三脚 シーズントゥー
もういちどリズムをつくる
〈ULTRA-TRAIL Mt. FUJI 2023〉に挑戦することを目標に2022年秋から再始動した。出場資格を得るために〈KOUMI 100〉と〈甲州アルプスオートルートチャレンジ〉の二連戦はなんとか完走したものの、「エントリー開始時に規定ポイントを獲得していること」が条件となり、申込みもできずに2023年大会への挑戦は終了となった。
はっきりとした目標を失ったことと、日々の忙しさが重なり、その後は走ったり休止したりと不規則な状態が数ヶ月続いた。おまけに高尾の冬は寒くて暗い。夏場は涼しいYellow gateまでのルートは、冬になれば地面は凍ってとにかく硬い。夏なら明るい早朝5時も冬は夜中のように暗く、ヘッドライトが必要になる。
結局、また今年も〈ULTRA-TRAIL Mt. FUJI 2023〉で力走する友人の姿に熱量が高まって、自分のトレーニングにも本腰を入れる決心がついた。コーチには「ゴールデンウィーク中に自分でリズムを作り直すので、それまでメニューはお休みにして欲しい」と相談して、まずは走る時間帯を固定して、回数を増やすことを意識した。ゆっくりと走る日もあれば、ロードから逸れてトレイルに入ったりと、その日の気分に合わせてできるだけ楽しむことを意識した。ゴールデンウィークが終わり、またコーチングをお願いしたいと伝えると、「待ってたよ」と優しくひとこと返してくれた。
目標は2022年にキャンセルとなった〈上州武尊スカイビュートレイル〉
上州武尊はトレイルランニングのデビューレースであり、はじめてのウルトラカテゴリーに挑戦したのもこのレースだった。距離128kmに対して累積標高は8280mある国内屈指の山岳レースだ。武尊山と剣ヶ峰の険しさも、レース後半になってもいつまでも続く登りも未だによく覚えている。そして、当時よりも走力も経験値もついた今の状態で挑んでみたいという気持ちがフツフツとわいてくる。この時点で本番まで約4.5ヶ月、積み上げをするには十分時間がある。
コーチへのリクエスト
上州武尊に向けたトレーニングをはじめるにあたって、コーチにはいくつか具体的なリクエストをした。特に、時間の使い方については制約があったので、何をするかよりも、いつ(曜日・時間帯)・どれくらい(週間の練習時間)するかについては細かくリクエストした。自分の場合、予定していることができない時にフラストレーションが溜まってバランスを崩す癖があるので、週末に長距離を走りたいという期待は捨てて確実にできることだけをやることにした。
・平日は朝時間を1〜1.5時間トレーニングに確保する
・週末は走れない前提で予定を組む
・週末走れた場合は前後に休息日を組む
・レース直前までロングの練習は難しい
・ベースの走力を上げるようなトレーニングを重視したい
逆に、何をするかについてはコーチに身を委ねて、組まれたメニューを日毎にクリアすることだけに集中した。週平均6〜7時間という限られた時間のなかで、エンデュランス期は淡々と傾斜のあるロードを走りながら、週2回のポイント練習に集中した。コーチング受講をはじめた去年は、メニューも運動時間も運動強度も、忠実に守ることで構造や効果を実感した。シーズン2となる今年は、要点はしっかり抑えつつ、スケジュールはある程度フレキシブルに自分で調整をした。例えば、ポイント練習の内容や週間の運動強度は守るものの、いつやるかについては仕事や生活とのバランスを重視して、無理なく続けることを意識した。
基本的には同じことを反復する。今日も明日も、今週も来週も、期分けのなかのテーマに沿って同じメニューを継続する。トレーニング初期はひたすらロードを走って、トレーニング終盤はひたすらトレイルを登り続けた。同じメニューを継続していると、余裕度が上がっていくことを体感できる。同時に平坦から傾斜、傾斜からトレイル、ショートからロングへと移行する時は苦労するが、気づけば自然と身体が慣れているから不思議だ。
コーチからのヘビーな課題
『「100km / 6000m / 14時間」これを週間目標にしよう。』
このうちの2つをおさえることと、テーパリングに入る前のラスト4週間で継続すること。コーチからのミッションは相当にハードだった。通常6〜7時間が週の練習時間だったので単純に倍になる。長時間動く練習はレース前の必須なので覚悟はしていたものの、既に毎週疲労困憊だったので14時間を、しかも4週続けることは想像できなかった。自分の場合、週末のバックトゥバックはできないので、週間目標を達成するためには週6で走ることはマストだろう。
14時間走れば距離100kmは超えるだろうから、あとは累積6000mをどうやってクリアするか。連続チャレンジがはじまる前週に予行演習をしたら見事に失敗した。まず、平日で蓄積した疲労の回復ができず、週末にロング走をする余裕がなかった。そして、平日から累積標高を意識したコースを走ったものの、週間6000mを達成するには綿密に計画する必要があることがわかった。アップダウンの激しいトレイルを週末に走ってもせいぜい3000〜3500mなので、少なくとも平日に3000mはこなしておかなくてはいけない。そうすると、平日1日あたりに平均600mを1〜1.5時間の練習時間のなかで走る必要がある。分解していくと相当にハードだ。
結局、家から走って5分にある初沢山に通って、約1kmで累積100mのコースを1.5時間ひたすら往復した。このコースは去年もレースが近づいてきた時によく通った。同じコースの反復なので1周目と最終周の疲労度を比較したり、前週と今週で余裕度があがっていくことを体感できるところがとても良い。特に、仕上がってきた時にはラップあたりのタイムが見事に重なってくるので、レースペースを意識するにはとても良い環境だ。おまけに初沢山のローカルレジェンドの称号もゲットして、文字通りにローカルとして誇らしい。
平日で累積標高を3000m獲得して、週末は課題の到達状況に合わせてフレキシブルにコースを組む。登りを意識しすぎると距離100kmが危うくなったりと、パズルを組み合わせるようにトレーニングをつなぎ合わせてなんとか4週連続で目標をオールクリアした。この4週間は紛れもなく今までで最も濃密にトレーニングをした。フィジカルだけで言えばこれまでで一番良い状態だろう。怪我なく目立った心配がなくスタートラインに立てることを楽しみにしていると同時に少し不安にも思う。それは、やったぶんだけ良い結果を望んでしまうからかもしれない。テーパリング期間中はそういう欲から距離を置くために、これまでの苦労をリセットしていく。
流れに身を任せること
Tomo’s Pitに入門してからトレーニングとの距離感はたしかにかわった。ひとりで走っていた時は原理原則を理解しながら実践して答え合わせをして、結果を照らし合わせることが楽しみだった。いまは結果の重要度はほどほどで、もっと手前にある今日のメニューをクリアできたか、ある期間のなかでどこまで身体的な変化を実感できるかの方が興味深い。それは、トレーナーとトレーニーという二人三脚の日々だからでもあり、誰かに頼るということはどこに流れ着くか身を委ねるということだと思っているからだ。
当日を迎えればあとはゴールに向かって動き続けるだけ。良い結果を望みながらも、そうじゃないことも頭の片隅においておく。ただ、どんな結果であろうと、本番にむけて課題をクリアできたことは紛れもない事実であり、クリアできたからこそ純粋な気持ちでスタートラインに立てる。128kmという距離のなかで、どんな偶然と出会えるのか、今までにないほどワクワクしている。