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僕のコウミヴァイブス ~KOUMI100の記憶3~

 

どんなに足が遅い僕でもさすがにTomp’s Pitでこなした練習が自信になっていた。

109日小海スケートリンクのスタート地点に立った僕には昨年までが嘘のような落ち着きがあり、不安は全くと言っていいほどなかった。目標設定どおりのゴール(35時間)が出来そうだななんてスタート直前に感じたのはこの時が初めて。これから悪天候になる予報なんて吹き飛ばすような会場の熱気の中、スタートへのカウントダウンをまるで日常の当たり前のことのように聞いている自分が不思議だった。

 

完走が目標

僕のゴール目標タイムは35時間。制限時間が36時間という事を考えるとだいぶ遅い部類にはいる。でもそんなことはどうだっていい。今回もしKOUMIを完走できれば来年以降に良い順位を狙えばいい。

 

悪い噂(笑)

KOUMI1001周目に6時間以上かかってしまうと完走は難しくなる」巷ではまことしやかにそんな噂が囁かれていた。かくいう僕もその噂に取りつかれたひとり。トモさんからは35時間目標なら1周目は6時間かけて抑えて走ろう!5周までなるべく足を残してイーブンを心がけよう!と言われてきたがその度に僕はいやいやそれではゴール間に合わないと反発してコーチを困らせていた。聞き分けの悪い生徒だ。

そんな僕の意識を変えたのはレース1週間前のミーティング。「のりさんは1周目のタイムにとらわれすぎ。3105kmを19時間30分で帰ってくるレースと考えればいいよ。105kmを19時間半で走るイーブンペースと考えれば楽でしょ!このペースで3周終えれば体力は残るからあとの2周はもらったも同然。夜2430分にスタート会場で僕と会えたらゴールは確定だよ!」とトモさん。

この考え方は僕の胸にすっと入った。この言葉を胸に先ずはスタート後、夜2430分に3周を終えてスタート会場に戻ることだけを考えながら走った。

 

周りにのまれない

なるべくゆっくりを心がけてスタートした1周目、まだ薄暗いが天気は良い。もくもくと静寂の中を走る静かな立ち上がりだったが、まわりのペースは驚くほど速い。最初の農道からキロ6くらいで走ったつもりだがガンガン抜かれる。気がつけば本沢への林道でかなりの数のランナーに抜かれてしまった。ただ幸いなことにスタートで会った”Runboy’s Rungirl’s“のりょーくんと途中まであーでもないこーでもない言いながら一緒に走れたので周りのペースに惑わされることは無かった。

それでもニュウの登りではパックに飲まれどんどんスピードが上り、1周おわってみれば設定タイムより32分も早い。設定タイムより早いことでアチャーと思ったのはこれが初めて。何だか変な感じだ(笑)

1周目) 目標設定602m  結果530m エイド1050

今回のレースプランで1周のエイドにかける時間はスタート会場と本沢、稲子湯合わせて15分。駐車場の車がドロップバックになるスタート会場になるべく時間を掛けたいので本沢、稲子湯は基本ドリンクミックス用の水補給だけ。この作戦はバチっとハマった。このコーチにしてこの生徒ありではないけれど、エイドの時間短縮はもはやTomo’s Pit全体のセオリーになっている。

 

密かな楽しみ

2周目3周目は徹底的にスピードを抑えることを意識した。2周目のニュウを下りたあとから雨がパラつき風も強くなりだしたが気にするほどではない。それよりもロードのすれ違いで素晴らしい走りを見せるチームメイト、トモヤ君とのグータッチにヴァイブスを感じてテンションが上がったことを強烈に覚えている。それ以降トモヤ君を見つけてグータッチすることが僕の密かな楽しみとなった。

次第に強くなった雨脚がどんどんサーフェスを泥んこに変えていくが、抑えて走っているためか一昨年よりは走りにくさを感じない。日が落ちてくると寒さも増し、途中のエイドに留まるランナーが多くなってくる。僕は今回のレースではエイドのテントに入らないと決めていたので、なるべくペースを乱さないように60分毎のジェルとソルトスティックの補給のこと、登りのパワーウォークとjogの切り替えポイント、ストックを出すタイミングなど必要なルーティーンの事に集中して頭の中をシンプルに、余計な感情が浮かばないように、淡々と進む機械仕掛けの人形になったつもりで走った。

2周目) 目標設定625m  結果613m エイド1641

 

良いスパイラル

3周目のニュウ折り返し、確か22時前だったと思う。1周目に偶然できた30分の貯金がまだそのまま残っている。約束の2430分にはスタート会場に戻れることを確信する。この頃は雨風が相当強くサーフェスは泥の滑り台と化していたが、約束の時間に戻れる嬉しさの方が勝りカラダが軽く、こける気がしない。足の疲労も少なく、ジェルもスルスル飲めているからゆっくりだけどしっかりと走ることが出来て冷たい雨でも寒さをあまり感じない。ウルトラランニングって悪いスパイラルに入らないよう気をつけながら走るものだと思っていたけど、良いスパイラルっていうものも存在するんだっていう事を初めて知った。

2418分。スタート会場の明かりがまぶしい。トモさんがいる、小山田さんもいる、多くの仲間もいる。とりあえず目標通りに3周を終えて安堵するも「ここからは手堅くいこう!」トモさんの声にハッとする。そう、あと70km!ここからが本番だよね(笑)

3周目) 目標設定646m  結果707m エイド1407

 

 

「はじめの70マイルは賢く走れ、のこりの30マイルは気持ちで走れ!」

コーチの有名な言葉。032分、いよいよ残り2周をスタートする。「顔つきが違うよ!いけるいける!」小山田さんからの熱いエールに気持ちがぐっと盛り上がる。

快調に走りだすも束の間、本沢への林道でカラダに突然異変を感じる。眠い、、眠すぎて気持ちが良い。。気持ちが悪いのではない、気持ち良いのだ。まるで自宅のベッドで眠りに落ちる直前の様な気持ちよさが襲ってくる。気持ちよさが襲ってくるなんてレース中じゃなければ最高だよ()。スタート前にカフェインドリンクを飲んできたしジェルもカフェイン入りに変えた、でも全く効かない。これには参った。結局ニュウの登りもずっと眠くふらふらで時計を見ることすらできなかった。だいぶペースが落ちていることは想像していたし実際この周回で貯金をつかってしまった。

「この先木の上にクマがいるとの情報があります!気をつけて進んでください!」

ニュウを下り始めて数分、運営スタッフの方の注意喚起で僕の睡魔は吹っ飛んだ。僕は大のクマ嫌い。まぁみんな山中でクマに合うのは怖いと思うけど僕が極度にクマを恐れているのは仲間内では有名だ。カフェインを大量に摂取しても何をしても勝てなかった睡魔が「クマの」一言で消滅した。この区間は怖さに打ち勝つために笛を吹きながらわざと陽気に走った。実際クマさんには合わなかったが眠気を覚ましてくれてとても感謝している。クマ様様だ(笑)

 

夜明け

4周目のニュウのくだり、笹のトレイルに出たころ目前がきれいな朝焼けに染まった。夜明け。太陽のチカラは本当に素晴らしく身体の底から元気が湧いてくる。気づいてみれば雨脚も弱くなってきた。以前から故障していた左足首に少し痛みが出てきたものの足も残っているしジェルも飲めている。ここら辺から頭の中にゴールの文字がちらつき始めるもまだ早いと気を引き締めて走る。登りはすでに歩きになってしまっているが平坦と下りはしっかり走れたと思う。

最後の大エイド、スタート会場ではサポートのユージさん一家が用意してくれたフルーツを大量にほおばった。手厚いサポートのおかげで今回補給のトラブルはまったくなかった。シャインマスカットをビニール袋に入れて手渡されたときは正直驚いたが一粒ほおばると幸せな甘さが一瞬レースの辛さを忘れさせてくれた。果物の糖分は胃に負担が少なくしっかりとエネルギーになる(気がしているw)。本当に感謝しかない。

4周目) 目標設定708m  結果739m エイド1853

 

コウミヴァイブス

最終周のスタート。すでに2位という素晴らしい結果を出してゴールしていたトモヤ君と最後のグータッチをする。これには痺れた!努力を形にした彼の姿をみてチカラをもらった。

正直いうと5周目の記憶はあまりない。ニュウの途中から飲み物をコーラにかえて夢中にゴールを目指したことは覚えている。ニュウの下りは遅いながらもまだ走ることが出来て、Tomo’s Pitで練習してきたことによって変わった自身の身体に驚いたことも覚えている(大腿四頭筋が売り切れなかった!)。すでに雨が止んで太陽の出たコース上は朝までのピリピリモードとうって変わってのどかな雰囲気に変わっていた。

最後の稲子湯を過ぎたあたりからは前後するランナーたちはみんな完走をかみしめるモードに入っていたような気がする。かわす言葉は「これで最後ですね。長い時間おつかれさまでした!」本当にみんないい顔をしている。戦友たちとみんなでゴールを目指す。これだ!これが100マイルの醍醐味なんだろうな。僕も少しだけ安堵した気持ちでここまでの30数時間を思い出しながら山を下った。

 

橋を渡って最後の農道を走る。会場の雰囲気が、アナウンスや声援が、そして僕を支えてくれたコーチと仲間の姿がだんだん近づいてくる。出迎えてくれたトモさんとハグをした瞬間涙があふれだして止まらなくなってしまった。

レース中の荒天がウソのように晴れ渡ったKOUMI100のゴール。おもわず口から出た言葉は「本気(マジ)でやれば報われる!」 

 

 

5周目) 目標設定726m  結果733
   GOALタイム350452

 

バックルは仲間が作ってくれた世界に1つしかない僕の宝物